
ご存知の方はもうご存知と思います
フランスで人気の現代作家
ミシェル・ウエルベック
なしにろゴンクール賞(日本の芥川賞と直木賞をあわせたような、つまり
最高といっていい文学賞)も受賞しており日本語訳も多数
冬ごろに、France2で、彼の新作が出た、と平積みになっている
映像を流していました
はあ、そうなの? それにアメリカでも売れていて
トランプも喜びそうな内容・・・とか
それは何だ?!とおそまきながら一冊買ってみました
(日本のアマゾンでも原書を購入できます)
まずは Soumission 「服従」
ある大学の先生が、うだつのあがらない日々を過ごし
政治情勢(実名も出てくる)、イスラム教の政治団体、教え子とのセックス
などが交互にでてきます
おりしも次回の大統領選2022年を舞台とする近未来小説
(現在の大統領はマクロンでなく前大統領のオランドになっています。
2017年の大統領選挙以前に書かれた)
極右のル・ペンを排除するため、なんと社会党からはじまって右派も
ムスリム同胞団のような、イスラム教の党に協力して
フランスがイスラム共和国になってしまう!という内容
そしてこの小説が、なんとCharlie Hébdo のテロの当日に発売
フランスの状況を予見したとして話題に!
あちこちで内乱のうわさ、混乱をさけて主人公はパリを離れ・・・
この辺の不思議な空気はよく描かれていると思いました
主人公もイスラム共和国となった、大学で教鞭をとることを
受け入れる、服従する、という結末
(文庫本の表紙、左ですが、エッフェル塔の先端が、イスラムを象徴する
三日月になっています)
しかし、女性蔑視、なにしろ最後は従属することを良しとする
(アッラーの神に)内容ですから、人の良識を逆なでするところ多々あり
ただ、宗教について、なるほど、と思ったところもありました
すなわち、カトリックの信者などがイスラムに改宗することは難しいが
無宗教、無神論者などがあるとき信仰をもち、イスラムになるほうが
あり得る。たしかに。
で、もう一冊読んでみようかな、と
それで今読んでいるのが
La carte et le territoire
「地図と領土」
こちらは長編。あるアーチスト、初めは写真家ですが
画家に転向した人物が主人公
読みやすく、Soumissionのように腹立つ?ところはありません
ゴンクール賞受賞作
だいたい、作者によると(両作に共通していますが)
ヨーロッパ、フランスはもう衰退しており、中国、ロシアが台頭している
夢も希望もない・・・というのが基調
(こういった小説を日本でだしたらどうでしょう?もう日本はダメで、中国が
最先端である・・・。反日、といわれかねませんね。この辺り、フランスらしい)
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少しフランス語を引用しましょう。わかりやすい文です。(会話ということもあり)
この小説の主人公は画家として成功をおさめるのですが
なんと作者のウエルベックに個展の解説文を頼むことにします
それを父親と話す場面(お父さんはもう引退してホームに入っている)
父親の言葉
''Il y a une petite bibliothèque à la maison de retraite;
ホームには小さな図書館がある
j'ai lu deux de ses romans.
彼の小説を2冊読んだよ。
C'est un bon auteur, il me semble.
いい作家じゃないか。
C'est agréable à lire, et il a une vision assez juste de la société.
面白いし、今の社会についてなかなか正しい視点を持っているね。
Il t'a répondu? "
彼は返事してきたかね?
という具合(自画自賛?)
そして実際、アイルランドの草ぼうぼうの家に住んでいるという作家に会いにいき
本人登場!
主人公のJed に対してわりと親切に対応する作家におどろいて
もっと気難しい人だと思っていたJed はこう言います
Vous avez la réputation d'être très dépressif.
あなたはとても落ち込んでいる人という評判です。
Je croyais par exemple que vous buviez beaucoup plus.
たとえばもっと大酒のみだと思っていました。
すると、ウエルベックはこう答える
Vous savez, ce sont les journalistes qui m'ont fait la réputation d'être ivrogne;
あのね、わたしが酔いどれという評判を作ったのは、記者たちだよ・・・
c'était uniquement pour parvenir à les supporter.
飲んだのはたんに彼らに耐えられるようにするためさ。
ユーモアというか皮肉というか・・・
まだこの辺までしか読んでいませんが
作者自身が本人として登場するなど、発想がすごい
また、信じられない比較とかあちこちに見られます
たとえば、
「今の若いもんは、キリストの生涯は知らないが、
スパイダーマンの生活には詳しい・・・」
YouTube に簡単な紹介の番組が載っています
(字幕つき!)
https://www.youtube.com/watch?v=Vf7jZyER3jo
スーパースター、ウエルベックという内容
たんに作家の範囲を超えて、社会学的な考察、直観を持っている
Serotonin セロトニン は ジレ・ジョーヌの運動を想わせる
さらに直観的に売れる、というかマーケティングの出来る人
一方、un romantique dépressif = ロマン派的な悩める人 の範疇に入っていて
ラマルチーヌのような系列であり、その意味で伝統的、であるとしています
このあとに、2年前のテレビ番組に出演したものがあります(自動的に変わります)
ま、一度ごらんになってもよいかも・・・
気になる作家です!
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6月22日追記
数日前に読了。第3章はミステリー仕立てになっていて(刑事もの)一気に
読みました。しかし、目が死んで、エピローグはあとでゆっくり読みました。
人の気分をさかなでするような所もやはりありますが
現代社会の問題を多岐にわたって描いていると思います
興味のある方はぜひ!
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